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狂言爆笑伝統芸能の魅力―1000年以上の伝統を継承する「千本ゑんま堂大念佛狂言保存会」

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「千本ゑんま堂大念佛狂言」(以下、「ゑんま堂狂言」という。)は、上京区の引接寺(いんじょうじ)に1000年以上伝わる念仏狂言です。稽古や公演場所となる引接寺は、通称「ゑんま堂」として親しまれています。今回は、千本ゑんま堂大念佛狂言保存会(以下、「保存会」という。)顧問の戸田義雄さんと事務長の嶋秀人さんにインタビューしました。


▲通称「ゑんま堂」で親しまれる引接寺

■ゑんま堂狂言の特徴


▲左)事務長 嶋秀人さん  中)レポーター 矢野実咲 右)顧問 戸田義雄さん

京都の念仏狂言は引接寺、中京区の壬生寺、神泉苑、右京区の嵯峨清涼寺に伝わり、それぞれ登録無形民俗文化財や無形重要文化財に指定されています。この、ゑんま堂狂言・壬生狂言・神泉苑狂言・嵯峨狂言、四つの狂言の総称が「念仏狂言」です。織田信長の時代に描かれた「洛中洛外図屏風」にも描かれています。保存会員は本業の傍ら狂言を演じており、公演活動を行っています。


▲2022年5月本公演の様子

そもそも能や狂言は、大名が娯楽として行っていました。一方で、念仏狂言は、大名と同じくらい力を持っていた寺社が布教活動の一環で、お参りに来た人たちに向けて行っていました。そして徐々に、宗教力が薄れ、一般の人々の娯楽の一つになっていきました。

そして、ゑんま堂狂言の最大の特徴は、ほとんどの念仏狂言は無言劇ですが、京ことばのセリフがあるということです。戸田さんは、「最近の子ども達は、すらすらと標準語を話していて、京ことばを話せない子が多い。」といい、指導する際も、京ことばのイントネーションを教えるのに苦労するそうです。確かに、京都出身の友人と話をしていても、京ことばはあまり聞かないなぁ、と感じます。


映像や音声の記録を残すことが難しい時代から受け継がれてきた伝統を、継承者が少なくなっている今、どのように継承していくかは課題です。ひと昔前にはあまり重要視されなかった記録の大切さを実感し、今は映像も貴重な記録として残されています。
「セリフではなく‘うた’である」そうして伝承されてきたゑんま堂狂言は戸田さん中心に若い世代に受け継がれています。
また、念仏狂言の特徴として、演者全員が着面で頭には頭巾などを被っています。表情が見えないので、身振り手振りが大きくなるということもあり、能や狂言に親しみがない人でも気軽に楽しめるものだと思います。多岐にわたる演目に対応できるように、小道具もたくさんありました。ほとんどが保存会の皆様による手作りという、貴重な衣装や道具も拝見させていただきました。


▲稽古場に丁寧に保管されている道具

■ゑんま堂狂言の特徴


▲狂言面

ゑんま堂狂言は何度も歴史の中で中断され、不審火により、狂言堂が全焼する事件もありました。ですが、念仏狂言にとって大切な狂言面が無事であったことから、保存会が結成され、現代まで受け続けられているという経緯があります。
ホームページでは初心者にもわかりやすくゑんま堂狂言について説明されており、継承への想いが伝わってきます。


戸田さんは「長く続いているものだから、自分の代では途絶えさせたくない。使命感を持ち、継承していきたいと思っています。毎年、全演目を演じて忘れないようにしています。公演を見に来られない人達のためにもライブ配信なども行っておりますが、中(保存会関係者)の人間にも、外(保存会以外の方)にとっても充実した保存会でありたい。」と戸田さんから、優しい笑顔の中にある力強いお言葉をいただきました。


▲インターネット配信の様子

また、嶋さんは、「私は、実際に公演を見たことがきっかけで、ゑんま堂狂言に魅了され、今は家族ぐるみで関わらせていただいております。私のように、すばらしい爆笑伝統芸能があるということを知ってもらうことで、もっとファンを増やしていきたいです。先日の国立劇場おきなわ公演を終え、日本中に通ずるゑんま堂狂言だということを実感し、また、演者としても意識改革になった公演でした。ゑんま堂狂言という伝統文化を束の間お預かりし発展させ、次世代に継承していきたい、ぜひ若い方にもっと関わってほしいです。」とおっしゃっています。戸田さん、嶋さんそれぞれのお立場でのお言葉が印象的でした。

■地域の人との関わり

昭和30年代の頃の写真を見せていただいたのですが、その当時は屋台の出店もあり、多くの子ども達で賑わっていました。ですが、現在は子どもの数も少なく、近隣の商店も職住一体の方も減り、以前のような活気は残念ながらありません。実際、保存会のメンバーは地元地域の人より、遠方の方が多いといいます。京都市の無形民俗文化財にも登録され、歴史的・文化的価値が高いにも関わらず、地域に応援してもらう機運が少ないのが今抱えている課題の一つです。
そこで、少しでも地域の方に知ってもらおうと、2019年11月には「秋の西陣祭(京都信用金庫 西陣支店主催)」で、衣装を着けた保存会会員が、お囃子と共に練り歩きました。


▲千本通をお囃子と共に練り歩きました。

地元の方には特にその魅力を知ってもらいたいので、積極的な活動をしていきたいと思っていた矢先のコロナ禍での自粛…。今後は「例えば公演の際には積極的にYouTubeのライブ配信を行うなど取り組んでいますが、幕間に地域にまつわる他の情報を発信する、あるいは、若い頃ゑんま堂狂言を見て育った地元の方で、福祉施設に入居されている方もおられると思いますので、ぜひもう一度見て笑ってほしい・・・地域で何かするならぜひ一緒に盛り上げていきたい、そう思っています。念仏狂言は、笑って楽しめるもので、親しみやすいものですから。」と展望を語ってくださいました。


ホームページでの細やかで丁寧な情報発信や、新しくなった稽古場の老松鏡板も保存会会員がそれぞれの得意を活かし作成する等、自給自足で運営をされています。地域の方の応援、そして未来のゑんま堂狂言を支える若い力が今後必要不可欠です。セリフが京ことばである特徴を持っているからこそ、なおさら地元の人々が継承する意義があると感じます。日本芸能は、敷居が高い印象を受けるかもしれませんが、戸田さんも嶋さんもとても素敵な方々で、ゑんま堂狂言に対する思いや宣伝活動が地元の人に伝わって欲しいとインタビューを通じて強く感じました。


▲保存会会員手作りの老松鏡板を背景に嶋さん(左)と戸田さん(右)

■より詳しく、狂言について、公演予定などがご覧いただけます。

千本ゑんま堂大念佛狂言保存会ホームページ http://enmadokyogen.info/index.html
千本ゑんま堂狂言保存会チャンネルhttps://www.youtube.com/channel/UCNzgJCPEZhq-wvGBO5-or7g/

レポーター

矢野実咲
大学生活を通じて上京区という地域について学んできましたが、ゑんま堂狂言はインタビューがきっかけで初めて知りました。自分が知らないだけで、上京区には素敵な活動をされている方々がいるということを痛感しました。ゑんま堂狂言が地元の人に広がり、より多くの人に伝わっていってほしいと思いました。

コーディネーター

岡元麻有
強い使命感を感じると同時に、楽しみながら継承されているお姿が印象的でした。ゑんま堂狂言は世襲制ではないので、常に若い力が必要です。お稽古は毎週1回程度、5月の本公演に向けて9月頃から行っています。演じてみたい!というお子様、若い方、小道具づくりに興味がある、関わってみたい方、ぜひご連絡されてみてはいかがでしょうか。
取材後、ゑんま様のおみくじを引いたら、矢野さんは大吉、私は中吉でした。このレポートを通じて良いご縁がつながりますように。

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