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伝統と革新―有職京人形司 大橋弌峰さんの人形づくりへの想い

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上京区には伝統を守り受け継ぎ、そして向き合い、日々取り組まれている方たちがたくさんおられます。 今回は、上京区役所での京都の暮らしの文化を伝え、交流を深める「京の五節句と年中行事-上巳の節句」 「端午の節句」において、 ひな人形、五月人形を展示いただいた有職京人形司 大橋弌峰三代目、大橋義之様にお話を伺いました。職人として変化する生活様式にどのように向き合い、 どのような思いを大切にされているのでしょうか。

「有職」とは平安時代に貴族たちの行事、儀式、習慣、装束に関する知識で有職故実を意味します。それに基づき、優雅で格調高い、京人形を制作されています。

人形制作は分業です。

頭部制作―頭師(かしらし)・・・胡粉とにかわで下地を塗り、
髪付―髪付師(かみつけし)・・・髪を植え付け形成。
手足制作―手足師(てあしし)・・・人形の手と足を木つくる。
小道具制作―小道具師(こどうぐし)・・・人形が持つ檜扇や烏帽子を作る職人。
胴組み・裁断・仕立て・着付けー人形司・・・衣装を着せ付け、各部分をまとめ姿、形に仕上げる。

それぞれの「師」のお仕事を司る(つかさどる)のが、人形司の役割です。

京都迎賓館(上京区)「桐の間」にも『朱雀大路 大極殿 束帯雛』(平成26年日本人形著作権協会認定第3号・著作権甲登録) が展示されるなどその技は数々の表彰を受けられています。

微妙な手の角度や縫製などの技で、まるで本当の人が着た時のような柔らかさと魂を感じます。

代々伝わる寸法帳をもとに、すべて手作業で進めていきます。
決まった衣装を着せるのではなく、西陣織などの反物を選ぶこと、特注するところから工程がはじまります。

優雅で華やかな雛人形に圧倒されますが、写真をよく見ると人形の頭の部分がないものがあることに気がつかれるでしょうか?
取材時は5月末。この日は来年に向けた新作展示会が開催されておりました。(~2021年6月25日まで)お取引先様のための展示会ですが、人形の種類、サイズ、衣装、お顔立ちなどを決めていかれるのです。

時期にとらわれず、私たち一般ユーザーも反物を決め、人形をオーダーメイドできることには驚きました。

帯をご持参されてのオーダーもあるとか。
まるでご自身のお着物を選ぶようで、とても満足される方が多いそうです。人形はもともと人形(ひとがた)と呼ばれ、人の身代わりとでもあったように、まるで自分自身でもあるようですね。だからこそ大切にされ、受け継がれていくのだと感じました。と、同時に受け継いでいくべきだと。もちろん、お直しも対応いただけます。

一方で、現代の生活様式、暮らしが変化する中で、伝統工芸に携わる職人として感じておれれる課題もあります。 「日本の文化、行事、しつらえを知っている人が少なくなってきていると感じます。知らないと知らないまま育ってしまう。たとえ、今の時代に合っていなくても続けていくことが大切だと思っています。」 と、大橋さん。

職人の立場でもSNSで発信をする、メディアで紹介をする、工房をオープンにするなど前向きに取組をされています。日本の伝統を発信し、知ることができる場を作ってくださることで、私たちは身近に感じ、後世に残すことが出来るのです。

大橋さんと同じような考えを持つ職人さんもいらっしゃると思います。
ですが、ここ最近はコロナの影響もあり、職人同志の情報共有や足並みをそろえて何かを行うことが難しいそうです。

さらに、暮らしの変化で一番顕著なのが、住宅事情です。好まれるサイズが小さく、かつシンプルになったといいます。

多様なニーズに柔軟に応え、シンプルでモダンな様式の提案もされています。

正絹織物に日本の伝統模様の和柄を刺繍し、純金箔の砂子加工がされているという粋な新作も。
季節を感じ、美しい色に心が落ち着きます。

また、もう15年以上前から海外ブランドの生地や、アニメ『鬼滅の刃』で話題となった主人公の着物柄のひな人形など、技術とセンスを生かした発想と発信に驚かずにはいられません。

伝統を続けて行く、という意味では、決して簡単な時代ではないかもしれません。
ですが、失ってはいけない心の絆、ゆるぎない文化に支えられているから、私たちは強く生きることが出来るのだと思います。
「人形に親しみを持ってもらい、後世に伝えていく」という強い信念を感じました。

レポーター 岡元麻有

大雨の取材日でしたが(そのため外観撮影ができず)、本物に囲まれた心地よい時間を過ごすことができました。
大橋さんとの出会いは、ラジオから流れた声でした。
「上巳の節句展(2021年3月・上京区役所にて)」で上京区のひな人形についてリサーチをしていた時、偶然ラジオで大橋さんがひな人形のお話をされておられ、その声と内容に「絶対いい人だ!」と思い、アタックさせていただきました。案の定、すぐに趣旨を理解してくださり、協力をいただくこととなったというわけです。
次回大橋弌峰様には2021年9月開催予定の重陽の節句では、「百歳雛」を初めてご協力いただく予定です。

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