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新しいかたちで「伝統」を守る 京和傘老舗、日吉屋の挑戦

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160年以上の伝統を誇る京和傘の日吉屋では、和傘を作るだけでなく、時代に合わせた変化・発展による伝統技術の継承に力を入れています。現在、中心的に和傘などの制作をされているのは5名の職人さんであり、その全員が女性です。その歴も2か月から13年と、若手の職人さんによって支えられています。(取材時2021年)

本店にて、職人の竹澤さん(写真右)と藤田さん(写真左)にお話を伺いました。竹澤さんはその歴13年。現在は新人の方々にどう技術を伝えていくかということに奮闘されています。藤田さんは入社して日が浅く、職人歴は2か月あまり。職人として伝統を守るだけではなく、新しいことへの挑戦を広げていきたいとおっしゃっていました。「伝統」を仕事にする。そのきっかけや経験はそれぞれ違っても、「ものづくり」に対する想いは共通しているように感じられました。

現在では技術を持った職人さんも数少なく、全国各地から修理の依頼が寄せられています。職人の方々は部品が手に入らないなどの困難を乗り越えながらも、日々作業に熱を注がれていました。日吉屋の職人さんによる修理によって、和傘を長きにわたり愛用することができるようになります。新しく作るだけでなく、修復して長く使えるようにする。こうして伝統技術は守られていくのだと思いました。

和傘職人はひとりがひとつの傘を責任もって手掛けていくことが基本となっていますが、和傘を制作するには、竹骨職人や和紙職人の存在が欠かせません。それぞれのパーツを制作する職人が欠けてしまえば製造はできなくなります。竹骨職人、和紙職人、そして和傘職人。分業制での製造はそれぞれの職人がいてこそ成り立ちます。和傘に関しても、傘の頭の部分でつなぎ合わせる「ろくろ」と呼ばれる部分をつくる職人も日本に数名しかおらず、日吉屋ではそれらの制作も自社で手掛けることができないか、といった新たな挑戦や研究も行っているそうです。

さらに、日吉屋では新しいかたちで伝統技術を伝える取り組みも展開しています。和傘の技術を生かした照明「KOTORI」(古都里)は、和紙を通したあたたかい光と、そのシンプルなデザインが魅力的です。和傘に留まらない「今」使える商品の誕生の背景には、伝統ある和傘の技術をより多くの人々に手に取ってもらい、「伝統」を身近に感じてもらいたいという想いが込められていました。

明治時代初期には和傘工房は京都市内だけでも200軒以上ありました。今では京和傘を製造しているのは日吉屋1軒のみ。全国的に見ても10軒程度しかないそうです。和傘の需要が減り、廃業寸前にまで追い込まれたことも。そんな逆境の中、日吉屋では京和傘から発想を得たデザイン照明を開発し、今では売上の多くが照明やインテリア商品になっています。「伝統技術を守る」ということは、今まで継承されてきた技術をつないでいくことだけでなく、そこで培ったものを新しいことに還元し発展させていくことなのかもしれません。「伝統技術」と聞くと疎遠な感じがしてしまいがちですが、常に新しいことに可能性を広げ、時代とともに歩んでいく日吉屋のように、これからは身近に感じられる「伝統」が人々を魅せていくのではないかと思いました。

日吉屋では、「和傘」を超え、伝統工芸や伝統産業に関わる様々なジャンルのコーディネート、提案、制作を行っています。ショップマネージャーの中村さんは、「和傘は、それ自体が主役でなくても、茶道における野点や芸舞妓さんの踊りなどといった文化や芸事、神事・祭事に欠かせないものとして歴史を支えてきたと思います。そういった歴史や文化がたくさん存在している町で、それぞれが調和し、伝統と革新を続けていければと思います。」とおっしゃっていました。「伝統」と「革新」を進め、新しい形で伝統技術を後世に伝えていくその柔軟さが日吉屋の大きな魅力であると感じます。伝統技術を生かして時代に合わせて変化を遂げる日吉屋のように、「古さ」と「新しさ」の両方を味方につけていくことが今後の伝統産業には求められていくのではないでしょうか。

技術者の不足や伝統工芸品の需要の低下に立ち向かい、この先も日本が誇る伝統技術を守り受け継いでいくうえでは、いかに「伝統」というものを私たちが身近に感じられるか、どのように生活の中に溶け込ませていくかが重要であると思いました。日吉屋さんのように、これまでの長い歴史の中で培われてきた技術を発展させ新たな可能性を見出していくことで、幅広い世代の人々が「伝統」というものに目を向け、興味を持つきっかけになるのではないかと思います。

レポーター 白坂 咲々良

立命館大学でジャーナリズムを勉強中。現在はフェミニズムや国際交流に興味があり、今後も上京区の魅力を幅広い世代に届けられるようなレポートをしていきたいと思います。

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