上京ふれあいネット カミング

私たちの食・住に寄り添う200年の歴史を持つ油商

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山中油店。
江戸時代から200年にわたり、人々の暮らしや京都の文化を支えてきた油屋さんが京都市上京区下立売通にあります。


▲山中油店外観

▲山中油店店内

油と聞くと、普段口にしている食用油を思い浮かべるのではないでしょうか。
山中油店では、もちろん食用の油を取り扱っており、油屋のショップ&カフェ「綾綺殿」では質の良い油を使って作られたお食事も提供されています。レポーターの私も以前プライベートで寄せていただいており、油とはこんなに美味しいものなのかと驚いたことを覚えています。皆さまもぜひお試しくださいね。

さてこの度は、山中油店 代表取締役の浅原孝さんに、「暮らしと油」をテーマに、普段の生活ではあまり触れることのない油の一面である「建築用塗料」や油の歴史についてお話を伺いました。


▲山中油店 代表取締役の浅原孝さん

「通常、建物や家具に使われている木材は何かしらの塗料を使い表面に塗装を施します。
DIYをされたことをある方は、ペンキなどを使ったことがあるのではないでしょうか。
簡単に入手できて、手軽に塗れるのが利点ですが、あまり木材や環境には優しくありません。
ペンキは木の呼吸を止めてしまい、未塗装の部分から水を吸い、中から腐ってしまい朽ちてしまいます。塗装をする目的は、見た目を良くするだけではなく、木材の保護が大事です。
その点、昔から使われている自然素材の塗料では、木をきちんと保護をし、長く持たせてくれるのです。」


▲自然塗装についてレクチャーいただきました。

浅原さんは自然塗料のそれぞれの特徴を、表を使って丁寧に説明してくださいました。


(山中油店HPより)

「自然塗料の油には3種類あって、乾性油・半乾性油・不乾性油があります。乾性油は木の表面で固まり、荏油、桐油、亜麻仁油があり、それぞれ特徴があります。荏油が最もよく使われる油で、綺麗な飴色になります。桐油は変色が少ないが、匂いが強いので外壁に使われることが多いです。亜麻仁油は綺麗な茶色になるが、乾きにやや時間がかかります。
不乾性油は固まりません。椿油がそれにあたり、酸化しにくいため、髪やお肌のケア、刃物の防錆に使われます。半乾性油は乾性油と不乾性油の両方の性質を持っており、菜種油が当てはまり、艶出しに使われます。
食器類に使うなら、国産荏油かくるみ油がおすすめですよ。自然塗料は京都の伝統文化にもかかわっており、祇園祭の鉾に塗られ、鉾の保存にも一役買っております。」

自然塗料の利点として、防腐・防虫・防水効果などが挙げられますが、近年は、シックハウスやアレルギーの問題を防ぐ観点から、京町家の修復以外に寺社や幼稚園の床などにも採用され、広がりを見せているとのことです。

一口に油といっても、こんなにもそれぞれに特徴があり用途や目的によって選べるのは面白いですね。山中油店さんでは、食用以外にも、建築・工芸用として荏油、桐油、亜麻仁油、くるみ油、菜種油、椿油をお取り扱いされています。
続いて、ベンガラと柿渋についてお話しくださいました。


「ベンガラは、酸化第二鉄からつくられ、日本の古代から使われる耐光性に優れた顔料です。インドのベンガル地方から伝わったことから、その名が付いたと言われています。ベンガラの色には地域性があり、広島のあたりでは赤色が強く、京都は茶色、高山のあたりでは黒が強くなります。ベンガラは柿渋と混ぜて塗りますが、柿渋一升に対し、ベンガラ250gの割合で溶かして、約25-30㎡塗れます。柿渋に接着作用があり、ベンガラの粉が木の細かい穴に入りこみ色がつき、木目は残って見えます。」

実際にベンガラ塗りを体験させていただきました。


柿渋の独特の匂いを感じ、服や靴に着かないように注意しながらの挑戦です。

「ベンガラと柿渋を刷毛で混ぜて、均等に木に塗る。乾く前にウエス(布)で木目が見えるまで、木の表面に残ったベンガラを拭き取ります。1日以上乾かしたら、ウエスで薄く乾性油をすり込ませるように塗る。風通しの良いところで表面を3、4日乾かしたら完成。」


▲ベンガラと柿渋を刷毛でまぜる。

▲木に塗る。

▲ウエス(布)で表面をふき取る。

▲1日以上乾かしてから乾性油をすりこませる。(左は赤ベンガラ・右は茶色ベンガラ)

想像していたより、なんとも簡単!
ベンガラはきちんとふき取りをしていれば、ほとんどムラなく塗ることができるそうです。

「ただし柿渋は別。柿渋単体だと塗るのはとても難しく、ムラなく塗るのは職人技。
柿渋は匂いも独特ですが、抗菌効果があって、防臭、防菌で注目を集めているんですよ。
現在は無臭の柿渋も開発されており、塗装で使用してみましたが、色落ちをすることがわかりました。どうも匂いの部分に接着成分が含まれているようです。」

柿渋単体での塗装は難しそうですが、仕上がりを見たら憧れてしまいます!


▲木目が美しく見えます。

山中油店では、多くの方に自然塗装のよさを知ってもらいたいと、ベンガラ講習会も定期的に開催されています。子どもから大人までどなたでも、昔から伝わるベンガラ、柿渋、塗装用油などの自然塗装を学び、体験することができます。自宅の床や家具などのメンテナンスに是非いかしてみてはいかがでしょう!


▲素敵な和傘を貸していただきました。もちろん油でコーティングされています。

京都には歴史ある建物が多く、上京区の至る所にも京町家があります。
そんな京町家は建てられてから100年や200年を超えるものも綺麗な状態で保ってあります。

山中油店さんが手がけている建物は全て、町家の保存を正しくしていきたいとの思いから、これらの自然塗料がふんだんに使われており、足を踏み入れた時からどことなく懐かしさを覚える香りと空気の良さを感じます。

「今の家は完成したときが一番良いが、昔の家は完成してからどんどん良くしていった。」

今回実際にお店・綾綺殿(山中油店の油を使ったショップ&カフェ)・京町家一棟貸しのゲストハウスをとても丁寧にご案内いただきましたが、どれもなるほどその通りだろうと思わされる家々でした。
もちろんできた当初の様子を知ることはできないけれど、その家が積み上げてきたもの、代々大事にお手入れされ引き継がれたもの、その豊かさと温かみを感じることができました。


▲平安時代、天皇の居所であった内裏の中。その中心的存在である紫宸殿の東北に位置し、舞いや宴が行なわれていた殿舎が「綾綺殿」であり、カフェはまさにその場所にあたります。

木材に自然塗料を使って塗装をすることによって、見た目が美しくなるだけではなく、木材自体を保護し、家や家具などを長持ちさせることができ、かつ人が安心、快適に過ごすことができるようになるなんて素晴らしいですね。
近年では、環境や健康に配慮したモノや動きへの関心の高まりを感じていますが、自然塗料は正にピッタリではないでしょうか。

「先人の知恵とは本当にたいしたものです。」

浅原さんが度々仰られていた言葉が印象深く残っています。

油の面白さ、奥深さを知ることによって、目先の便利さに流されず、物事の本質を見つめ、古き良き伝統・知恵をもっと学び、これからも大事にしていきたいと感じるとても有意義な取材となりました。


浅原さん、この度は貴重なお時間とお話をどうもありがとうございました。

山中油店さんでは、ベンガラ講習会の他、朝市も毎月第3土曜日の9時から開催されます。
どうぞ足を運んでみてくださいね。
詳細につきましては、山中油店さんのHPをご参照ください。

■DATA 山中油店

京都市上京区下立売通智恵光院西入下丸屋町508番地
【営業時間】 8:30~17:00 【定 休 日】 日曜日、祝日 (年末年始とお盆に約1週間の休みあり)
https://www.yoil.co.jp/

レポーター紹介

上野 有貴子(写真左)

米国大学を卒業後、就職した後、木工を学び、大阪のデザイン会社にて家具製作を経て、2021年にHOYとして活動を始める。家具、プロダクトの設計製作、内装設計施工などを行う。
現在は築100年を超えた京町家を自身で改装をしながら暮らしている。場所づくりや循環にも興味を持ち、北山ホールセンターメンバーの一員。
家具製作などで様々な塗料を扱うなか、喘息を発症し、ある塗料を使うと決まって発作を起こすようになりました。いかに使用される素材が健康や環境への影響が与えうるか、また素材の選択の大切さを身をもって感じております。その上で今回、山中油店さんで取り扱われている塗料について伺い、その知識と考え方に感服しました。一人の作り手として、 健康や環境に配慮したものづくりができるよう、いっそう知識を深め広めていきたいと思います!この度はありがとうございました。

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