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歴史を、自由を尊ぶ生徒たちの鴨沂高校への愛を見た ~ 鴨沂高校演劇部 近畿大会優秀作品「S.」より ~

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 2月16日(日)、京都の演劇集団が集まる「Kyoto演劇フェスティバル」が京都府立文化芸術会館で開かれた。今日の目的は鴨沂高校演劇部「S.」を観ること。彼らの劇は近畿大会で優秀賞を取った素晴らしいものと聞いた。関係者から言われたのは、「彼らの思いを是非その演技で感じ取ってほしい。」ということ。彼らの思いとは、何なのだろう。それが知りたくてやって来たのだ。
 
【校舎の建て替えが劇のテーマに】
彼らの高校、鴨沂高校。上京区唯一の公立高校。ここは、新島八重が勤めた日本初の公立女学校・女紅場であった地であり、前身は府立京都第一高等女学校という由緒ある高校である。その校舎が建て替えられるという。
 
 
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「私たちの校舎が建て替えられる。」突然の発表に驚く生徒たち。それはOBの間にも伝わった。
夏の大会で脚本指導をしていた演劇部OB・小谷彩智さんも、この決定に心揺れた。そして決めた。
「校舎の建て替えをテーマに脚本を書こう。」
これが今、一番みんなの心の中にあるものだから、それを自由に表現してみたかった。どういう結果になろうとも、みんなで考えるきっかけになればいい。
 
【劇で伝えた校舎への思い】
ざわめいていた会場が暗くなり、幕が上がった。女学生が一人、傘をさして立っている。その子はどうやらこの時代の者ではなく、さらに言えばこの世の者でもないようだ。舞台は動き、現れたのは現代の夜の校舎。昔の女学生の幽霊を探しているという。彼女と出会うと願い事を聞いてくれるのだ。しかしこの校舎はもうすぐ壊される。彼らは叫ぶ、早くしないとすべてなくなってしまう。そうだ、ここで密かに存在してきた彼女はどうなるのか、と。そこに老婆が現れ、生徒たちと、この校舎にまつわる昔語りを始める…さらにもう一つの舞台は昭和初期の女学校。あやしい親密さで佇む2人の女学生。文学や将来の夢を語り合うふたり。しかしやがて一人は命の花を散らし、一人は失意の中、時の語り部となっていく…舞台はこの後、昔の女学校時代と現代が交錯しながら、登場人物に学校・校舎に対する愛着の思いを絞り出すように語らせていた。
 
 
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▲劇中の1シーン
 
 
観客席、暗闇の中に数多くのすすり泣きの声が聞こえる。彼らの思いは伝わっているのだ。
劇が終わり割れんばかりの拍手が鳴り響いた。おりた幕前で並ぶ生徒たち。みんな声を震わせ、泣きじゃくっている。それは、思いを伝えきったものにのみ許される姿であった。
 
 
劇名の「S.」とは、昔の女学生同士の親密な関係を指す言葉だという。
脚本の小谷さんいわく、
「男女の関係とは違い、行き着く先のない関係。次第に執着心が増していく彼女たちは、やがて恐ろしくなり、お互いを裏切り合う。のちに懺悔し、歩み寄ろうとしても手を取り合うことはない。なぜなら、どちらも悪くないから。」
そこに校舎への思いを重ね合わせてみたのであろうか。
「校舎に対する思いはさまざま。だから、どちらも悪くない、そこに見出している価値が違うだけ。」
ただ、「自由」に自分の思いを表現したかったのだと。きっとそれが、皆の心の琴線を震わせ、秀逸なストーリーとして認められることになったのだろう。
 
 
【歴史ある校舎で育まれた校風】
上演後楽屋で彼らに尋ねた。鴨沂高校を色で例えるなら何色だろう?
「うーん、オレンジかな…それも錆びた。」
オレンジは自由な気風を表しているのだろうか。彼らの会話のあちこちに「自由」「個性」という言葉が顔を出す。生徒たちがすべて自分で決める。先生はそれを後押しする。そんな校風が鴨沂にはある。「錆びた」色とは?それは歴史の積み重なり。時間の経過に耐えたこの校舎のような重み。年月を経ても古ぼけてしまわない、洗練された美しさ。そんな校舎の中で生徒たちは、自由な空気を吸い、学び、青春を謳歌した。
 
 
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鴨沂高校。ヘレン・ケラーもこの地を訪れ、その校舎・学風を称えた。
「あなた方の学校には高貴な伝統がある。あなた方は学生生活を通じてこの貴い歴史に忠実にあらねばならない。自分自身の力を信じ、己がなし得る事を知覚し、各自成すべき事に尽くす事こそ最高の業である。たとえ学窓を出て世の荒波にもまれても、理想を高く掲げ、如何なる場合にも義務を遂行されたい」と。
 
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在学生・卒業生や保存を望む建築専門家などの要望があり、校舎の一部を残す方向で設計されているというが、今あるこの姿はもう戻ることはないだろう。彼らはその旧校舎で卒業式を行うことを決め、愛する母校から旅立っていった。それは、「自由」な学校への愛、消えゆく校舎への愛、さまざまな愛にあふれた最終の儀式となった。
 
 
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愛着のある校舎を無くしてしまうことは、生徒・OB達の本意ではないだろう。しかし彼らは十分にその思いを劇で伝えた。それは劇を見た人々に届いているのだ。彼らの瞼にはいつも、あの気高く美しく歴史の重みある校舎が焼き付いている。卒業生たちは学窓を離れてもきっと、自由・個性を尊ぶ気風を胸に、鴨沂高校で目指した理想を追い求めていくだろう。
 
 
 
取材日 2014(平成26)年2月16日
 
 
レポーター紹介
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鳴橋 明美(なるはしあけみ)
 
上京区西陣に生まれ育ってウン十年、現在も上京区で主人と一緒に京組紐を生業としています。また、実家を「京都桐壷庵」と名付け、スペースレンタルとともに、茶道・着物など京都の文化や伝統産業を広める活動を始めました。
愛する京都、上京区をさらに深く知ることができるマチレポを知り、ちょっと感想を言うだけのつもりが、レポーターになってしまいました!取材を通じて改めて上京の奥深さを感じ、また、人との出会いに感動しています。これからも未開拓の京都を発見していきたいです。
 

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