HOME   >>  特集情報TOP  >>  上京区今原町家さんの防空壕調査について

イベントカレンダー

リンクページ

アクセス数

カウンタ

上京区今原町家さんの防空壕調査について

 

 私たちは,実際に戦争を経験された方を除いて,普段の生活で戦争を意識することはほとんどありません。ところが私たちの身近なところに,しかも上京で,ひっそりと戦争に関する遺構が存在するのです。それが家庭用防空壕です。

 

 <防空壕調査の理由>

 今回の防空壕調査を行われる京都防空壕調査チームは小出純子さん,河野康治さん,江口久美さんにより結成されました。建築の専門家であるお三方が京町家について調査される中,防空壕が現存していたり名残を発見したりということに出くわすにつけ,町家のことを記録として残すならば町家に存在する防空壕のことも残すべきであると考えられるようになりました。さらに,京都市内のど真ん中である,上京・中京・下京に戦争遺跡があるという事実を残すことはまちづくりにつながり,もっと多くの人に知ってほしい,他に誰もやっていないのならば,自分たちができる限り記録を残そうという思いをもって活動されています。

 

 先日,京都防空壕調査チームによる京都の家庭用防空壕(「家庭用防空壕」は正式名称ではないが,便宜上このように表現します)調査の中間報告を,上京区内で実施されました(平成27年7月31日~8月1日実施,会場町家シェアオフィス,第10回 京都の家庭用防空壕調査~調査の中間報告~)。そのご縁で今回,今原町家さんの防空壕調査を実施されるところに同行できましたのでその調査方法,実際の防空壕の様子をお伝えします。

 

1.png

 

平成27年7月31日~8月1日に町家シェアオフィスで実施された

「京都の家庭用防空壕調査~調査の中間報告~」の様子

 

<今回の防空壕調査の概要>

実施日:平成27年11月9日(月)9時30分~12時

会 場:今原町家(京都市上京区葭屋町通上長者町下ル菊屋町516)

    昭和4年建築,元は組紐職人家。

参加者:防空壕調査チーム

     小出純子さん(建築設計事務所ジェイズアトリエ)

     河野康治さん(京都大学大学院研修員)

    今原町家オーナー

     湧月りろさん(今原町家オーナー)

    調査のお手伝い

     冨家裕久さん(特定非営利活動法人京町家なんでも応援団/冨家建築設計事務所)

    調査レポート

     松井朋子(京都市まちづくりアドバイザー)

調査目的:今原町家さんの床下に存在する家庭用防空壕の入り口が押入れ内に確認できたので,まずは押入れの板をはずして中を覗き,防空壕の現状の確認,形やサイズを図面化として残す。

 

<家庭用防空壕と防空壕のタイプについて>

 京都防空壕調査チームのみなさんによると,家庭用防空壕とは,戦時中に造られた家庭用待避所や待避壕といわれるもので,地下にある築造物または穴,くぼみ跡のことで,一般的な家庭用防空壕はその造られた形,場所等で三タイプに分類されるそうです。

 

素掘りタイプ:天井がなく床板敷き、または畳と荒床板が天井替わりとなります。ブロック等で補強するほか,土のままであることも。昭和16年発行京都府警察部『簡易防空壕指導要領』によると「簡易待避所」として,町家等の空地がないところは床下に掘ることを推奨されました。ただし,弾片,爆風等に対して十分安全ではない旨が添えられています。あくまで一時待避することが目的のようです。

 

転用タイプ: もともとある地下室をブロックなどで補強して防空壕に転用したもの。大きな商家や会社などの地下倉庫などが転用されている例が確認されています。

 

築山タイプ: 昭和13年国の防空指針によると空地に設けることを指示しています。空地,山などに横穴等掘ってつくった洞穴のようなものです。

 

 今原町家さんの防空壕は,これによると素掘りタイプに分類されます。素掘りタイプには複数の出口(通り側,押入れ等)が見られるのが特徴のようですが,今原町家さんの場合今回,町家の入口付近,押入れ内に出入り口が確認できました。

 

2.png

 

今原町家さんの外観,現在はお食事ができる飲食店をされています。

 

3.png

 

防空壕の入り口が昔あった町家の入り口付近,改修時に塞がれて現在は残っていません

 

4.png

 

押入れの中にある防空壕の入り口。床板が取り外しやすいように指穴が見られます。

 

<今回の調査でわかったこと>

 押入れ内の防空壕入り口となる板には,蝶番のあとが残っていました。また,指穴が空けてありすぐに開けられるような工夫が見えます。入り口のサイズは大よそ50センチ×80センチです。板をあげて中を覗くと,床下の防空壕は埋め戻され45~50センチぐらいの深さしかありませんでした。レンガ片が多数見え,畳下の床板に蓋らしきものを発見しました。そこで,オーナーの湧月りろさんの許可を得て,畳を上げることに。

 

5.png

 

押入れ内の板をあげて中を覗く冨家さん。

 

6.png

 

押入れのふたからカメラを入れて,床下を撮影。畳の下の床板にとってのようなものが見えます。

畳の下の床板が取り外せることがわかりました。

 

 畳を上げると,床板に二つ指穴が開いた板(薬45センチ×約70センチ)が二枚出てきました。床板をさらにあげて中を確認すると,やはり床下の防空壕は埋め戻されており,床からは25~30センチぐらいの深さになっていました。しかし,かつての防空壕の壁(レンガ・モルタル)の名残があり,防空壕の通気口として木枠で窓がつくられている様子がみられました。

7.png

 

畳を上げると,床板2枚分の入り口が出てきました

 

8.png

 

床板をあげると,モルタルの名残が

 

9.png

 

レンガの壁が残っており,防空壕に入るための階段があったのではないかと推定されます

 

10.png

 

現在の深さを測る京都防空壕調査チームの小出さん

 

11.png

 

中にカメラを突っ込んで撮影すると,防空壕の通気口か木枠が残っていました

 

 防空壕調査チームや京町家なんでも応援団の冨家さんによると,防空壕の形は入り口付近が狭く,中が横に広いようですが,これは家の構造上の柱や,押入れ横の金庫の重みを避けて造成されたためかもしれません。今後,この調査によって計測した広さ,深さを防空壕調査チームの方たちは図面に落として形を復元される予定です。

 

<押入れからガスマスク5つ発見>

 防空壕のほかにもオーナーの湧月さんからガスマスクを見せていただきました。以前に押入れから五つ発見され,戦時中の家族数に合致するので家族のためのものかもしれないと考えられています。

 ガスマスクは筒状の入れ物に入っており,入れ物には「内務省規格品ヨ(甲)一七年式防空用防毒面

昭和化工 昭和19年10月」と見えます。詳細な取り扱い説明もガスマスクに直接付記されています。

以下,取り扱い説明を文字起こしました。

1.本防毒面は防空用意芸の用途には絶対に使用せざること

2.使用及び貯蔵の際はその取り扱いを丁寧にし特に吸収函及び覆面(めがね及び貼合部)を損傷せざるごとく注意すること

3.使用の際は吸収函の上下の口栓を取り外して装面したる後必ず掌を以って収収函の底を塞ぎて吸気を行い気密の可否を点検すること

4.使用後は直ちに堅く絞りたる濡手拭を以って覆面内部を払拭し乾かしたる後収納すること

5.貯蔵の際は成るべく湿気火気及び塵埃を避け直射日光の当たらざる場所に保存すること

6.寒冷の折には曇止のためめがねの内面に石鹸液を薄く塗布して装面すること

 

                               配給斡旋 財団法人大日本防空協会

箱記載:(甲)2号 昭和化工 昭和19年6月

 

12.png

 

ガスマスクとガスマスクが入っていた入れ物

 

13.png

 

ガスマスクには製造会社,年月日と取り扱い説明が付記されています。

 

14.png

 

防空壕調査チームの河野さんが試しにガスマスクをかぶったところ

 

 防空壕調査チームの河野さんにためしに装着していただいたところ「息ができない」と。「吸収口にろ過材か何か入っていて,すでに使用限度を超えたため空気が通る穴がないのでは」と推測しました。

 

<防空壕調査を終えての感想>

オーナーの湧月りろさん

 親から話は聞いていたが,床下を確認し本当にあったのだと驚いた。防空壕のある部屋の隣の部屋を改修した際に床下のレンガを見たのが2007年。それからレンガの向こう側が気になっていた。確認できて良かった。

 

冨家裕久さん

 仕事で防空壕の形跡はいくつか見てきたが,手掘りの土のままであまり関心を持っていなかった。しかし今回のようにブロック,モルタルで壁を作られているものを見ると印象が変わった。これまでの防空壕の調査資料をつくり残しておけばよかったと思う。今後見つけたら情報を防空壕調査チームと共有したい。

 

京都防空壕調査チームの小出純子さん

 防空壕は京都市内のどこの家にもあったはず。特に住宅密集する上京の場合,町家の床下がメインだったのでおくどさんのように当たり前にあったと考えられる。しかし,当たり前だからこそ普段の生活の中であまり話さないし,上京は西陣空襲の影響かあまり戦時中のことを話したがらないように思う。また,世代替わりし戦中のことを伝え聞くこともないままであることも多い。そのために建て替えや改修時に防空壕が発見されることも多い。今回,上京の中で調査が進められて良かったし,今後も情報を引き続き求めて行きたい。

 

 町家の保存活用が重視される昨今,家庭用防空壕が床下換気を遮り家を傷ませる,戦争の記憶が忌まわしい等の理由で埋め戻され,なかったことにされている、もしくはまったく忘れられているということを防空壕調査チームの皆さんからお聞きしました。しかし,一方で適正に対処すれば防空壕との共存は可能だそうです。個人の所有物なので一概にすべて保存することは不可能ですが,記録をとるということはなかったことにしない重要な作業であると実感しました。特に,防空壕を目の当たりにし,家の歴史,町の歴史を語り継ぐということを重視される上京の方々の心持に,今後,防空壕の話が当たり前に付け加えられ譲渡後の持ち主,次世代の持ち主に伝わり引き継がれることを切に願います。

 

レポーター紹介

松井 朋子(まつい ともこ)

京都市まちづくりアドバイザー

上京区が主担当で日々,区役所事業やかみぎゅうくんのPRなど上京のまちの中をうろうろしています。

 


新規団体登録

団体登録いただきますと、あなたの団体も情報発信ができるようになります。あなたもカミングを使って情報発信していきましょう。

登録団体のブログ