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この刺繍、リアルすぎー! 〜糸で立体的に描く中村刺繍〜

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▲この猫が糸で繍われたと言われても、信じられない!

 

 私は、美術が大好き。今までいろいろな美術館に行ったこともあれば、 美術史を学んだこともある。好きな絵もあるし、好きな画家もいる。しかし、これまで、私は絵画にしかふれる機会がなかった。日本に来る前に、刺繍について何も知らなかったのだ。だからこそ、中村刺繍さんの作品を見て、「 刺繍はこんな素敵な芸術だったのか」と感激した。
 
 絵画観賞で私にとって最も興味深い所は、どのように画家の技術、つまり描き方が作品に影響を与えるのかということだ。刺繍は絵ではないが、同じ論理を当てはめることが出来るはずだ。刺繍の技術、つまり繍い方に関して、中村刺繍の中村彩園さんに詳しくお話を伺ってきた。
 
 
繍い方が二百以上も!!
 
 画家は筆と絵の具を使って自由に描け、そのおかげで印象派やリアリズムというような特別なスタイルが編み出された。刺繍の場合、糸と針を使うため、絵画より表現方法が限られていると思っていたので、繍い方が二百以上あると聞いて驚かされた。繍い方は、どんな風に増えて、継承されていったのだろう。
 代々、刺繍職人は自分の思い描くイメージを形にするために新しい繍い方を次々に編み出していった。昔は決まった繍い方のルールがなかったので、既存の繍い方で表現が足りない場合、新しいのを試してみることが多かったのだ。ちなみに、中村さんによると、現在オリジナルの繍い方を編み出すことはもうされていないが、ある物を組み合わせて効果を生み出すことは結構あるそうだ。
 しかし、繍い方がそういう風に個人個人で編み出されてきたのに、なぜ現在、二百以上の繍い方が受け継がれているのだろうか。刺繍は平安時代に人気になり、職人も刺繍が施された物もどんどん増えた。刺繍が施された古い物を見た後の職人が、「あぁ、こういう方法もあったか」と発見し、自分でもそれを試してみるということがよくあったようだ。中村さんもある効果を生むために、どの繍い方をするのがいいか他の刺繍職人に相談することがあるそうだ。このような互いの学び合いから、二百以上の繍い方が代々受け継がれてきたのだ。
 このように、針と糸が表現の手段として不自由だからこそ、職人は、自分の表したいイメージを具体化するために想像力・創造力を発揮できたというわけだ。刺繍と刺繍職人の素晴らしさをまざまざと感じた。
 
 
二つの魔法みたいな繍い方
 
 二百以上の繍い方があるといっても、現在、そのすべてが使われているわけではないそうだ。中村さんによると、約十二だけ頻繁に使われているそうだ。それは簡単なものではないが、その基本の繍い方を使うといろいろな効果が生めるということだ。

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▲よく使われている繍い方の四つ。この基本の繍い方を組み合わすことで、もっと複雑な繍い方が出来るそうだ。

 

 どんな繍い方でも刺繍は時間がかかる芸術だが、中村さんにとって、一番時間がかかるのは「刺し繍い」という繍い方だ。というのは、動物や景色というような複雑な模様を写実的に表すため、何度も重ねて繍わなければならない繍い方だからだ。それでも、刺し繍いはとてもリアルで立体的なイメージを表すので、役に立つものだと思われる。

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▲刺し繍いで繍った馬の額縁だ。この立体的なイメージを表すのに、なんと25時間かかったそうだ!

 

 一方、一番楽しいのは「組紐繍い」という繍い方だ。それは、組紐のイメージを表す繍い方だ。中村さんは、なぜ組紐繍い が楽しいのか言葉でよく説明できなかったが、しいて言えば、ただ糸で繍っていくだけなのにロープの様に見える物が出来上がった時に、何か面白い感じがするからだそう。私も、どうしてこの絵、あるいは、この画家が好きかと聞かれても言葉に表せず、頭がパニックになって答えられなくなるので、中村さんの気持ちがよく分かる。

 

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▲やはり、どう見てもこの「組紐繍い」は本当にロープみたいだね。

 
お客様を喜ばせる刺繍のプロ中村さん
 
 着物の刺繍では、業者さんがデザイン画もそのイメージも決める。例えば、紙に花の模様をデザインして、さらに「花を薄く見えるようにしてほしい」というようにイメージを指定するということだ。それを聞いた刺繍職人は、自分でそのイメージを刺繍で表現するのに適当な繍い方を選ぶ。 そういう時に、注文されたイメージがそんなに模様の美しさを生かさないと思っても、中村さんは自分の考えを入れずにそのイメージ通りに繍う。これに関して、中村さんは「注文仕事の場合は、自分の意志とは関係なく、相手が喜ばはるということで…」とおっしゃっていた。

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▲中村さんの働いている姿だ。この素敵な帯は誰のために繍っているのだろう。

 

 中村さんの普通の仕事は着物に刺繍をすることだが、約十年前から着物以外に自分でデザインした作品も売るようになった。例えば、サクソフォンやピアノなどの楽器の刺繍を施したネクタイがある。実は、最近趣味としてサクソフォンを吹き始め たので、それを刺繍で表したいと思ったのだそうだ。
 
そのような創作的な物と注文品を比べて、どちらの方が満足度が高いか聞くと、中村さんは全く別物だから比較しようがなく、どちらも楽しいとおっしゃった。
 
 
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▲着物以外にこういうモダンな製品も出来るのはすご〜い。
 
 
 ちなみに、注文された物と自分でデザインした物の唯一 の 違いは、「逆にうちは…注文通りにやるのが得意なんで、自分で表現するのは上手じゃないんで …とても難しい」と、少し笑いながら教えてくれた。 
 これまで芸術とはアーティストが個人の伝えたいことがあるからするというような物だと思ってきた私にとっては、他の人を喜ばせるための物だという中村さんの意見は新鮮だった。
 
 繍い方が二百以上にまで増えた経緯からも分かるように、職人さんが常に自分のイメージをいかにして刺繍で表現するかを考えているという点では、刺繍も私の元の芸術の定義と同じだ。しかし、中村さんを通して学んだのは、お客様の考えと気持ちを優先して、それを形にすることもあるということだ。 やはり芸術の世界は広くて素晴らしいと思えた。
 
中村さんは、次は、誰の考えたデザインを魔法みたいな繍い方で美しく、立体的に、しかもリアルに形にするのだろう。楽しみにしている。
 
 
■中村刺繍■
 
京都市上京区上立売通堀川東入堀之上町五
075-431-1426
 
 
レポーター紹介
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バネッサ・テナザス
 
フィリピンに生まれ、ニュージャージー州に引っ越し、今ワシントンDCにあるジョージ・ワシントン大学の三回生。専攻はアジア研究、または日本の文化と文学。将来、日本語を使う仕事に就きたい。あと、芸術以外では、おいしい食べ物が大好き。
 
 
 

こちらの記事も合わせてご覧下さい。(以前紹介した中村刺繍さんの記事です。)

1針1針に心をこめた、繊細で奥深い京繍のわざ ~中村刺繍さんをたずねて~

http://kamigyo.sakura.ne.jp/tokushu/zukan/post-84.html

 

 

 

 

 

 


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