"まちみせ"としてのお豆腐づくり ~椹木町 入山豆腐店~

今も、上京区の片隅で薪をお竃(おくど)さんで炊き、昔ながらに豆腐を作り続けている店舗がある。
創業から180年を越えて営む入山豆腐さんの八代目の店主が、熱く語る「変えないコト」=「守り続けるコト」
それらはすべて、おいしいもん(豆腐)でなくてはならないというコト。
それは、特別な方法ではなく、とても理にかなった方法でもあり、愛情がのった手仕事でもありました。
機械では再現できない昔ながらのお豆腐づくりは、『生産』ではなく、『手仕事』なんだ・・・。
そんな良さに浸った、わたしたちレポーターの感動をおすそわけします。
◎入山豆腐店での“いとなみ”
お豆腐って、どうやってつくられるか、知っていますか?
豆乳とにがりを入れたら固まるんでしょ・・・?
または、機械が魔法のように作ってくれる、そんなふうに想像もつかない方もいらっしゃるかもしれません。
事実、昭和30年代より、機械化が進み、お豆を炊くのも、しぼるのも、オートメーションにてできるようになっていきました。
入山豆腐店でも機械の導入を検討したことがあったとのこと。ただそのときに、『そんなんあかん!豆腐屋はちまちましこしこ作るんや~』と断ったおじいちゃん。当代も、機械にしようかなぁと思ったこともあるけれど、“もうちょっとできるかなぁ”と思って、やってきたそうです。そういった中で培った入山豆腐店ならではのこだわりがまちのひとたちに愛される味を生み出したように感じました。
では入山豆腐店が守り続けてきたこだわり、そして昔ながらの製法ってどんなものなのでしょうか?
お竃さんに木を入れて(ガスではなく)お豆腐を作っているのは京都ではこちらだけ。(全国でも10軒程度しかないとのこと) そんなお豆腐づくりを皆さんにご紹介しちゃいましょう!

▲入山豆腐店の八代目の店主
◎昔ながらのお豆腐の作り方
”これであなたも明日からお豆腐名人!” というくらい自分でも、やってみたくなりますよ☆
1.一晩、大豆を水につけてふやかす(6升枡分。倍近くに膨れる)。
2.グラインダーという機械で水とまぜあわせながらすりつぶす。この間、お竃さんのおかまにお湯をわかしておく。
3.どろどろになったお豆を、お竃さんで沸かした湯の中へ入れ、炊いていく。
※薪をつかってお竃さんで炊くことで、火力があがり短い時間で炊きあげることができ、お豆腐に香り・うまみがのる。ガスで炊いてしまうと、カロリー(火力)が低くて長時間かかり、しかも釜の同じところに火があたるので、釜が傷みやすいとのこと。
おいしさと引き換えに、ずっと見ていなくてはいけなかったり(急に噴きこぼれたりこげついたりしないように)、タイミングよく手をいれて混ぜていくなど、経験(熟練の技)も必要になりますが、ちょうど良いあんばいでうっすら焦がされ、鍋のふちにへばりついた大豆の「キャラメル効果」で、香りも甘みもアップ!
うぅ!たべたい!
4.炊きあがったら、目の粗い袋→細かい袋を通し、しぼっていく。これで豆乳が完成です!
5.大きい桶で、豆乳とにがりをまぜる
6.ふきんを引いた型箱に移す
7.重しをして余分な水分を抜いていき、水に放して切る。これでお豆腐が完成です!
※必要な大きさにカットするのも、すべて手作業。つくづく手間ひまがかかっているなぁと・・・。
できあがったお豆腐は、お揚げさんや、飛龍頭、焼き豆腐などに姿形をかえて店頭に並んでいきます☆。
昔ながらの方法は、たっくさんの良いところがあります。そちらもご紹介!

▲すべて手作業で作られ、こうして完成!
◎再利用エネルギーを利用してとってもエコ!
お竃さんで使った、消し炭(けしずみ)を使って、焼き豆腐を作ります♪
炭で焼くことで、バーナーで焦げ目をつけるだけのものより、断然甘味が出ます。
それも、きちんとふきんで水切りしてから焼くため、お豆腐がしっかりして、お味も濃く感じる。
もちろん、煮炊きするときは、水切りが済んだ状態なので、味のしみこみも抜群!くぅ~、すき焼きに入れたいですね!(焼き豆腐と鯛のあら炊きもおすすめです) ちなみに、消し炭で焼いた後に出た灰は、豆腐をしぼったふきんを洗うときに用いられます。
お竃さんで使う薪も、大工さんや指物屋(さしものや)さんからでた廃材を利用しています。コストや木の確保という手間はかかりますが、生活の中に再利用エネルギーのしくみがうまく出来上がっています。
『昔から使われてきた、木というエネルギー源、悪いはずはないんやけど、最近は煙やらで使いにくくなってしもて、、、本当は無駄がないので、使っていきたい』とのお言葉のとおりに感じました。
『うちは捨てるもん、何もあらへん』 。そう胸を張って、淡々と豆腐づくりをされているお姿がとても印象的でした。昔ながらの日本の商いのかたち、ものを当たり前のように大切に使いきる精神が、ここには今も息づいています。
▲お竃さんの炭を再利用して、昔ながらのやり方でひとつひとつ作る焼き豆腐
◎揚げ豆腐(おあげさん)は一度揚げ
現在のお豆腐やさんは、2つのお鍋を使って、低温と高温で二度揚げをすることで、ふくらせたり、色をつけたりしたりしていますが、お竃さんで揚げると、お豆腐をいれた直後は一旦自然に温度が下がり、そこから木を足して温度があがりながら揚げることになる。このため、自然に二度揚げのようにふっくらおいしくできるとのこと。
おあげさん用のお豆腐も、すべて最初にご紹介した型箱に入れて作ったお豆腐を使っています。
カットの厚みと水きりの有無が違うだけなので、『揚げ豆腐』の呼び名のとおり、硬すぎず、スカスカなこともない、ふんわりどっしりしたおあげさんになります。
どこまでも、食べる人の食べ心地を考えて、作ってくれているからだなぁと感謝の想いが湧いてきます。

▲飛龍頭(ひりょうず)
◎飛龍頭(ひりょうず)
飛龍頭(ひりょうず)とはがんもどきのこと。一晩しっかり水切りをしたお豆腐に、ごぼうやにんじんを加え、揚げていきます。形をまとめていくためのつなぎには、なんと!生の長いもを毎朝すっていれているとのこと。
乾燥長芋なら日持ちがするし、加えるときも手がかゆくなったりしないですが、
香ばしくておいしい飛龍頭のため、毎朝すってくださっています。
どうですか、もういまからでも、『お豆腐ください!』と行きたくなってしまうでしょう。
入山豆腐店の魅力は、ほかにもあります。
◎顔のみえる関係は、“まちみせ”だから
店先では、近所のおばあちゃんや主婦が、夕食用にと豆腐やお揚げさんを買い求めにやってきます。夕方前には、売り切れてしまう勢いで!
おばあちゃん「昨日は、お豆腐でおつゆやったさかい、今日はお揚げさんにしとくわ!」
短い会話の中にでも、生活の様子が垣間見えるやりとりが、このお店にはあります。
逆に、挨拶にも慣れていない若者にとっては、コミュニケーションの練習の場になってもらえたらいいと店主。
お買い物に、ものを買う以上の価値を与えられた そんな印象もうけました。
それに、こうした町の中(通りに面した)お店だからこそ、外で物音がしたらすぐに見にいけたり(治安を自然に守っている)、近所のことが自然にわかったりします。
わざわざ「顔のみえる関係をつくろう」ではなく、自然に「顔のみえる関係がある」ということが、どれほど豊かかなぁと、感じます。
今回は、初めて取材に参加する方が多く、緊張していたメンバーもいましたが、レポートをおえて、みんなたくさんのことを感じました。
まちに住んでいても、そこで暮らす人や、なりわいを営む人の想いをきける機会は、あまりないもの。
でもこうして聴けることで、自分のくらすまちがもっと好きになったり、お買いものができる場所が増えたり。
実際、当日買って帰ったお揚げさんと焼き豆腐は、しっかり晩ご飯になりました。
◎取材を通して想うこと
お揚げさんは、焼いて醤油こうじをのせていただきました。スーパーで売っているお揚げさんとは比べものにならない厚さでした。あの厚さがジューシーなお揚げステーキになり、食べ応え満点でした。
焼き豆腐は、豆腐の焼き目(炭火で焼いてあるんです)をいかして、鳥のすき焼き(京都では魚を煮付けるときに豆腐をいれる)にしました。すき焼きは、お肉がメインではなく、焼き豆腐の圧勝!豆腐の取り合いを息子としてしまう始末でした。
私たちのまわりには、見えてはいなくても、すてきな人やすてきなお店がたくさんあると思います。
ただ、現在の入山豆腐さんには、後継者がいないため、当代でこの味がなくなってしまうかもしれないとのこと。
京都は昔お町内に1つ位の感覚でお豆腐屋さんがあったけれど、現在は年間10件ほどずつ廃業していっていると、お豆腐店の厳しい状況も知りました。
「伝統」は、それを守る人の意志と努力があるからこそ存在する。
そんなことも思い、「レポーターみんなでこの豆腐作りの技術を次の世代にどうやったら伝えることができるのか」
「食べる側の私たちに何かできることがあるのか」と考えました。
わたしたちにできることは、「こんにちは」と、声をかけあい、お互いに感謝しながらくらしていくこと。
くらしの中に、取り入れていくこと。
挨拶や、会話のように、ささいなことが、大事なんだろうなと感じました。
みなさんも、ちかくにある“まちみせ“に、行ってみてくださいね。
きっと何か発見があるはずです☆
「入山豆腐店」
営業時間 9:30-17:00
定休日:日曜日
Tel:075-241-2339
所在地:上京区椹木町通油小路北東角 東魚屋町347
レポーター紹介
レポーター 川尻郁美
群馬の田舎の出身ですが、日本の伝統文化の中心である京都への憧れから京都の大学に進学しました。食べることが大好きで、お豆腐屋さんを見学してみたい!と思ったのがきっかけで参加しています。
京都に住み始めて三年目。通り名やお寺など、何となく京都を理解してきましたが、マチレポでは普段生活しているだけでは分からない一歩踏み込んだ部分に触れられるので毎回わくわくしています。京都のモノだけでなく「人」にも出会えるのが、マチレポの魅力だと思います。
レポーター 坂手明子
上京区の京町家でルームシェアしながら、地域福祉の仕事をしています。
目の前の人を大切にするここちよいくらし、和のくらしを心がけ、重ね煮の料理教室「しあわせ重ねくらす」ものんびり開催しています。マチレポは、人の素敵なところをじっくり感じさせてもらえて、地域の人とのつながりももてるので、参加させてもらえてとてもしあわせです☆ ありがとうございます☆
レポーター 高橋貴絵
フリーのカメラマンを生業としております。
マタニティーからウエディング撮影まで...女性の一生にかかわってゆく写真撮影をさせていただいております。一瞬の笑顔を撮影し、未来の幸せのために残すお手伝いができる写真になれれば...と日々精進して撮影しております。自分の生活する場を少しでも多く知ることができれば、楽しいかな?と、おもいマチレポに参加させていただきました。
レポーター 鳴橋明美
上京区西陣に生まれ育ってウン十年、現在も上京区で主人と一緒に京組紐の仕事をしています。
愛する京都、上京区をさらに深く知ることができるマチレポを知り、ちょっと感想を言うだけのつもりが、レポーターになってしまいました!取材を通じて改めて上京の奥深さを感じ、また、人との出会いに感動しています。これからも未開拓の京都を発見していきたいです。
以上