今回、知っているようで知らない御苑の魅力を再発見すべく、御苑の管理をされている一般財団法人 国民公園協会京都御苑の支部長である加藤博之さんの取材に伺ってきました。
▲お話をお聞きした加藤さん。御苑の近所の鴨沂高校ご出身だそうです。
協会ではどのような活動をされているのですか?
当協会は、日本で3つしかない国民公園の管理を任されている民間の財団法人です。3つというのは、京都御苑、新宿御苑、皇居外苑が該当するのですが、京都御苑はその中でも最初の国民公園なんですよ。
私たちの日々の業務としては、京都御苑の保全管理と、利用者の方々への情報発信が中心です。
▲いつも綺麗な御苑内。その陰には人知れず掃除をされている方々が。
京都御苑と京都御所は、どう違うのですか?
そもそも、「御苑」と聞いてピンとくる方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。「御所とは違うものなの?」と思われる方が多いのではないでしょうか。実は、「御所」というのは築地塀内の旧皇居のことを指します。その外側、つまりそれ以外の公園部分を、「御苑」と呼んで区別しているんですね。
余談ですが、御所の所轄は宮内庁、御苑の所轄は環境省、京都迎賓館の所轄は内閣府にそれぞれあり、私どもは環境省より委託を受けて業務を行っています。
▲京都出身のレポーターでも知らないことばかり。勉強になります
日々のお仕事の内容を詳しく教えて下さい。
御苑の保全管理では、苑内の清掃や食堂の運営といった業務の他に、自然環境の整備保存に力を注いでいます。御苑には珍しい動植物が多く、絶滅危惧種であるナニワトンボや、全国で3例しか確認されていないキノコを目にすることができるんですよ。四季ごとの自然観察会や毎月のキノコ観察会をされている市民団体もあり、開催時には沢山の方がいらっしゃっているようです。当協会では、それらの活動と御苑の自然をまとめた「京都御苑ニュース」や「京都御苑自然現況調査報告」の発行、人々を招いての研究報告会の開催を通じ、貴重な自然環境の保存に向けた啓発を行っています。
▲「京都御苑ニュース」を発行して、御苑の魅力を発信しています
公家屋敷の公開に協力することも重要な仕事の一つです。もともと、御苑は沢山の緑に溢れていた場所ではありません。明治の遷都の際、御所を囲んでいた公家屋敷の大半が引越し廃れてしまったので、その荒廃ぶりを悲しんだ明治天皇の命により緑化を行い住民憩いの場とした経緯があるわけです。私どもとしても、現存している公家屋敷の公開に協力することは重大な使命だと感じていますので、平成18年より、改修された閑院宮邸跡(かんいんのみやていあと)の無料公開を行っています。
▲閑院宮邸跡ではガイドによる案内もあるんですよ。
御苑内のオススメスポットはどこですか?
まずオススメしたいのは、九條邸跡敷地内にある拾翠亭(しゅうすいてい)です。五摂家という最も位の高い公家の一つであった九條家の茶室であり、御苑内では、200年前より現存する唯一の建物です。毎週金曜日と土曜日に一般公開しておりまして(入場料:100円)、お越しいただいた方からは、「縁側で時間を忘れてのんびりできる」とのお言葉をいただいています。
実は、申込による施設利用もできまして、参観日を除く他の日には、市民団体の茶会や句会が開催されているんですよ。一般公開の金曜・土曜日に「部屋でお茶菓子を楽しみたい」とのお声も沢山いただきましたので、この6月末までは試験的にそれらをご提供させていただいていました。(呈茶は9月より再開しました。時代祭・御所一般公開を除き12月初旬くらいまで提供予定です。)
▲貴族の茶室であった拾翠亭。何時間でものんびりできちゃいます。
中山邸跡にある祐の井(さちのい)も面白いですね。この中山邸跡は明治天皇がお生まれになった場所であり、祐の井は明治天皇ゆかりの井戸なんですね。残念ながら一般公開はしていないのですが、柵の外から中の様子を覗くことはできます。狸が住み着いているようですので、彼らを見かけることもあるかもしれませんね。
▲明治天皇生誕の地である中山邸跡(祐の井)。残念ながら入れません。
私個人が好きな場所は「母と子の森」でしょうか。大学時代は山の勉強をしてばかりいましたので、今でも森が大好きなんです。広葉樹が多く、秋には本当に綺麗な彩りを見せてくれるんですよ。樹と言えば、御苑には代表的な桜であるソメイヨシノが一本もないんですよ。なぜかは私も知りません(笑)。これからの時期ですと、御苑ではサルスベリが綺麗です。(取材当時は夏)
▲写真左:御苑内のサルスベリの木 写真右:イチョウの木
今後より取り組みたいお仕事について教えてください。
「いま御苑ではこんなことが起きている」という情報発信をより強化していきたいですね。国が管理する公園ということで苑内広報に制約があったり、ウェブサイトの管理を東京の協会本部で一括して行っていたりする関係もあり、これまではなかなかスピード感ある情報発信ができない状態にありました。「これじゃいかん」ということで、昨年の4月からは、広報担当職員を増やしブログにて情報発信を行なっています。
外国の方へのサービス向上も、今後注力したい課題です。地元にいるとあまり気付きませんが、御苑は外国の方から見ればとても人気のあるスポットなんですよ。24時間開放されていて、無料で歴史ある庭園や建物を見ることができる。パスポートを見せれば、御所の中に入ることだってできるんですね。最近はアジアからの方も増えていますので、京都の御苑としてだけではなく、日本の御苑、世界の御苑として広く魅力を発信していきたいですね。
▲京都の御苑から世界の御苑へ。
一般財団法人 国民公園協会京都御苑
住所:京都市上京区京都御苑3
電話:075−211-6364
FAX 075-211-6365
メール:fng@live.jp
<取材を終えて>
今回の取材では、大変お忙しいなか、加藤さんから2時間半もの時間をいただきお話を伺うことができました。加藤さんご自身も左京区のご出身であり、民間企業を定年退職後、「生まれ育った京都のために何かできれば」との思いで今のお仕事をされているとのことでした。
「人々がごろんと横になりくつろげる空間を守り続けたい」とのお言葉がとても印象的であった加藤さん。お言葉に甘え、私も今度の休みには横になりに出かけてみよう思いました。お弁当を持って、サルスベリを見に。
【レポーター紹介】
吉田 耕平
京都に生まれて四半世紀と少し。専門学校に通うかたわら、障害者福祉施設の職員をしています。
最近の趣味はランニングとスイミング。サラリーマン時代に蓄えた贅肉を落とすことがライフワークです。